校長
校長
山口 利幸

産業界からの強い要請を受け、高専制度が昭和37年に創設され、本校も地元の大きな期待を受け昭和38年に設置されました。そして、令和5年に節目となる本校創立60周年を迎えました。高専設立当初は、高度経済成長期の日本のものづくり技術を支える実践的技術者の養成を使命とし、中学卒業後から専門科目を学び始める早期教育と、実験・実習、インターンシップや卒業研究を重視したカリキュラムによる5年間一貫教育を大きな特徴としていました。そして、科学技術の進展や産業構造の変化に対応して、より高度な能力や技能が求められるようになり、変化する時代に対応できる実践力と創造性を有する人財の育成を図る高等教育機関として進化を続けてきました。その中でも大きな変革が、設置基準の大綱化と法人化です。平成3年の大綱化によって、5年間の高専教育(本科)の上に、さらに2年間のより高度な技術教育を行うことを目的として、専攻科を設置できることになりました。専攻科の設置により、課題解決能力を備え、広く産業の発展に寄与できるより高度で幅広い知識を持った技術者が養成されます。専攻科修了生は、大学改革支援・学位授与機構の審査を経て、学士の学位を取得できるようになりました。また、学士を取得すると大学院に進学できます。2点目の法人化は、平成16年に全国の国立55高専すべてが独立行政法人国立高等専門学校機構にまとめられたことです。その高専機構法には、職業に必要な実践的かつ専門的な知識及び技術を有する創造的な人材を育成するとともに、我が国の高等教育の水準の向上と均衡ある発展を図ることを目的とすることが定められています。教職員数、学生数ともに日本最大の高等教育機関となり、そのスケールメリットを活かした高専間連携も図りつつ、中期目標・中期計画を策定して、高専の発展を目指す体制になりました。 本校は、開校当初、機械工学科2学級、電気工学科1学級の1学年120名定員でスタートしました。その後の産業界の進展に伴う多様な人材養成に応えるべく、昭和42年に土木工学科1学級を増設し、学生定員は1学年4学級160名の総計800名となりました。また、平成元年には機械工学科2学級を機械工学科と制御情報工学科の2学科、各1学級に改組し、さらに、平成24年にその制御情報工学科を情報工学科に名称変更しました。電気工学科は平成13年に電気電子工学科に名称変更を行い、土木工学科も平成16年に都市システム工学科に、さらに平成23年に都市・環境工学科に名称変更しました。

さらに、平成15年には、地域社会が求める環境共生技術及び情報通信技術を専門とし、生産技術や電気電子技術に幅広い知識をもつ研究開発・問題解決能力に優れた人材の育成を目的として、機械・環境システム工学専攻および電気電子情報工学専攻よりなる、1学年16名の専攻科を設置しました。令和5年は、専攻科設置20周年になります。そして、現在は、本科が機械工学科、電気電子工学科、情報工学科、都市・環境工学科の4学科それぞれ1学級、そして専攻科が機械・環境システム工学専攻、電気電子情報工学専攻の2専攻の体制で教育と研究に邁進しています。 科学技術や産業構造の変化に対応した、最近の取組みを紹介します。まずは、文部科学省に認定された「数理・データサイエンス・AI教育プログラム」です。デジタルトランスフォーメーション(DX)時代を迎えた今日、人工知能(AI)を作り、活かし、新たな価値を生み出すことができる人材が求められています。人工知能、膨大な様々なデータ、ビッグデータを処理するデータサイエンスを適切に理解し、それを活用する基礎的な能力を育成することを目的として、全学科の学生が学べるようにカリキュラムを編成しています。また、文部科学省の高等専門学校スタートアップ教育環境整備事業に採択され、「豊の国」パイオニア人財育成教育プログラムを構築しています。地域の団体や企業との連携を行いながら、本科・専攻科の現PBL科目の内容を充実させ、高度情報化社会に対応した最先端ものづくり教育、起業家指向のプログラム導入、及びコンテスト参加支援を通じて、地域活性化や未解決な社会課題に果敢に取り組み、未来を創るパイオニア人財を育成するアントレプレナーシップ教育を実施しています。

さらに、高専機構が推進している、Society 5.0により実現する未来技術をリードする高専発!「Society 5.0型未来技術人財」育成事業にも採択されています。これは、GEAR 5.0(未来技術の社会実装教育の高度化)とCOMPASS 5.0 (次世代基盤技術教育のカリキュラム化)の二つのプロジェクトから構成されています。GEAR5.0のマテリアル分野では、「K-CIRCUITが牽引する高度先端マテリアル社会実装研究・教育」、環境・エネルギー分野では「水素社会実現に向けた社会インフラ構築のための研究開発と人材育成」のテーマ名で、研究・教育グループを形成しています。それらのプロジェクトを通じて、地域や社会の諸課題に自律的・主体的に取り組み、かつ生涯学び続ける学生を継続的に育成します。また、COMPASS5.0の半導体分野では、「半導体人財育成事業」に取組んでいます。半導体は、5G・AI・自動運転・ロボット・DX等のデジタル社会を支える重要な基盤であり、経済安全保障にも直結する重要な戦略技術分野と言えます。その中で、半導体に関わる人財育成は喫緊の課題であり、本校では、県内の半導体関連企業等に協力いただきながら、産官学連携で半導体人財育成の科目等を令和5年度に新設して取組んでいます。 社会や産業界の要請を踏まえ、これまでに本校本科の卒業生は7970名、専攻科修了生は470名で、技術者や研究者として企業、大学・高専、自治体などの幅広い分野で活躍し、我が国の産業・経済など社会の発展に多大な貢献を果しています。そして、企業をはじめ社会からの高専卒業生の評価は極めて高く、近年の求人倍率が30倍を超える状況であることに表れています。この高い評価を得ている背景には、教職員や学生の弛まぬ研鑽と努力に加えて、しっかりした高専教育の質保証が挙げられます。第三者機関による審査が定期的に行われており、最近では、令和3年度に独立行政法人大学改革支援・学位授与機構による3回目の高等専門学校機関別認証評価を受審し、すべての評価基準に適合していることが認定されました。また、日本技術者教育認定機構(JABEE)による審査を受け、本科4年生から専攻科までの4年間に行っている教育を「システムデザイン工学プログラム」として認定されています。このプログラムは、国際的な水準を規定しているWashington Accordを満たしており、外国からも国際水準の教育を行っている証になっています。さらに、高専の国際展開を踏まえて、日本発祥の高専本科5年間の教育の質保証を図るため、新たに5年間一貫教育を認証する制度として国立高専教育国際標準(KIS)による評価が令和4年度から開始されました。本校はその最初の受審校に選定され、日本工学教育協会による審査の結果、全ての基準を満たしていることが認定されました。その他にも、専攻科設置に係る教育や担当教員の審査も定期的に実施されており、高専教育は多くの外部審査によって質保証されています。

また、本校学生の活躍にも特筆すべきものがあります。本校が10年ごとに発行している記念誌にも紹介されていますので、50周年以降について触れておきます。まずは、NHKで放送されている「アイデア対決 全国高等専門学校ロボットコンテスト」(高専ロボコン)における本校ロボコンチームの活躍です。毎年競技課題が変わりますが、柔軟な発想力と高い技術力を駆使して、本校の学生は輝かしい成績を上げています。平成28年(ロボットニューフロンティア)と令和4年(ミラクル☆フライ)に全国大会準優勝、平成29年(大江戸ロボット忍法帳)にロボコン大賞、令和2年(ハピ☆ロボ自慢)にアイデア賞、令和3年(超絶機巧)にデザイン賞を受賞し、高専ロボコンの強豪校になっています。

足踏みミシンボランティアも他校に類を見ない本校独自の活動です。国内の家庭から寄付された古くて壊れた足踏みミシンを修理して、東南アジア諸国の経済的に困窮している人たちに寄贈し、さらに、現地に出向いての修理指導なども行い、現地の人々の生活や就労の支援に貢献しています。この活動は様々な機関等から高い評価をいただき、公益財団法人社会貢献支援財団の第55回社会貢献者表彰や公益財団法人西日本国際財団の第20回西日本国際財団アジア貢献賞など多数の表彰を受けています。

上述した活動以外にも、体育系・文科系大会や研究成果発表、コンテスト等でも本校学生は優秀な成果を上げています。

さて、冒頭に本校創立60周年を迎えることを申し上げましたが、その記念事業を執り行います。主な事業は、記念式典、「高専の森プロジェクト」植樹式、学術記念フォーラム、学内環境整備やホームページの創立60周年記念特設サイトです。「高専の森」プロジェクトは全国の高専で実施されており、持続可能な開発目標SDGsの実現と、次の世代の高専生の成長をこの「高専の森」が見守るというメッセージが込められています。学術記念フォーラムとして「KOSEN水素フォーラム2023 in OITA」を開催します。このフォーラムは、前述したSociety5.0 時代の未来技術の中核となる人材の育成を目的とするGEAR5.0事業の活動成果を公表するものです。今回の記念事業の内容は、本校ホームページの創立60周年記念特設サイトで随時公表します。この特設サイトは、従来の創立記念事業で行っていました「記念誌」の発行に替えて、記録に留めるもので、より多くの情報量の収録とより広範な方々への情報発信が可能と期待しています。

令和2年から続いた新型コロナウイルス感染症による学校活動への苦難の多い影響も乗り越え、これからも本校の学習教育目標である「人間性に溢れ国際感覚を備え、探究心、創造性、表現能力を有する技術者」の育成に邁進します。創立60周年をさらなる成長の契機として、「たゆまぬ挑戦,飛躍の高専!」のキャッチフレーズのとおり、さらなる挑戦、実践、創造の「力」を活かし、幅広く社会の発展に貢献することを目指します。

結びに、これまで本校を温かく見守って頂きました多くの皆様方に、深く感謝申し上げます。今後ともなお一層のご支援、ご協力を賜りますようお願い申し上げます。